リテラチャー・サークル研究会

Literature Circles Research Center

愛媛大学教育学部英語教育講座 立松研究室

  • 役割シート:Discussion Directorの例(コロラド州のミドルスクール)

リテラチャー・サークル

 リテラチャー・サークルは、まとまった分量の英文を読み、4人程度のグループで話し合い活動をする協同学習であり、「主体的・対話的で深い学び」を実現できると思います。児童生徒は読んだ内容について考え、自分の気持ちや考えを他の人と語り合い、本文の内容理解を深めることができます。アメリカのリテラシー教育を発祥としており、アジア、オーストラリア等にも実践は広がっています。リテラシー教育における指導手順を簡略的に示すと次のようになります。

  1. 児童生徒を4人程度のグループに分けます。それぞれの児童生徒に話し合いのための読みの役割を与えます。読みの役割とは、例えば、Questioner(読んだ内容をもとにして、理解を深めたり話し合いを深めたりするための質問を作る)、Connector(読んだ内容を自分の生活や経験、世の中で起きていることとつなげる)、Word Wizard(読んだ範囲から新出語や特徴のある語を見つけ、その語義や特徴を説明する)、Literary Luminary(読んだ内容から重要であると考える文章について説明したり、読んでいるときに感じたことを説明したりする役割)などがあります。役割の内容は役割シートに示されることが多いようです。教員は児童生徒に身に付けさせたい力のねらいにより、これら以外の役割も組み合わせて使います。ただし、役割シートの指示内容が児童生徒の自由な発想を制約してしまうとの懸念から、役割シートを使わない方法で実践する事例もあります。
  2. 小説の1章分などのまとまった文章を読み、役割シートに記入する。これまでに観察したアメリカやオーストラリアでの事例では、家庭学習の範囲です。
  3. 教室でグループになり、本と役割シート・メモ・ノートを使い、20-30分程度の話し合い活動を行います。教師はグループを見て回り、コメントや質問を行いながら、話し合いのプロセスを観察します。
  4. 振り返りシートなどで活動を振り返る。

英語の授業で実践できるリテラチャー・サークル

 私が勤務する大学の授業ではリテラチャー・サークルの考え方を取り入れた活動を行っています。学生は英文を読み、それぞれの読みの役割に沿って話し合い活動のための準備をするため、結果的には何度も繰り返して英文を読むことになり深い理解につながります。例えば、Questioner役は物語内容について事実を問う発問、推論を求める発問、個人に関する発問を作るため、何度も英文を読んで考えることが必要です。しかも、グループのメンバーが質問にどのように反応するかなどを考える、いわゆる相手意識が欠かせません。Connector役なら、内容理解をした上で自分自身や社会との接点を見つけ、メンバーに説明します。英文の表面的な理解にとどまらず、内容と深くインタラクションをする読み方が求められます。どの役割であっても、グループで話し合う意識をもって英文を読みます。話し合いでは、これまでに身に付けた英語の知識や技能を駆使して自分の思いや考えを伝えます。英文を何度も読み、アウトプットの機会があり、他のメンバーの反応や意見が聞け、自分とは異なる観点から英文を理解する方法があることなどを学べるため、この取組は学生からも好評です。

中学校・高等学校でチャレンジできるリテラチャー・サークル

【読みの役割】

 それでは、中学校・高等学校の教科書本文を活用したリテラチャー・サークル型の授業を提案します。教科書には生徒の心に訴えかけ、興味・関心を駆り立てるさまざまな題材が取り入れられています。生徒が読む英文は、物語文を選択する方が活動に取り組みやすいと思います。これらの題材を使って、新しい語彙や文法、表現を指導し、英文の意味を理解させることだけで終わらせるのはもったいないと感じます。中学校・高等学校での取組を考えるとき、どのような読みの役割を準備すれば指導しやすいでしょうか。L1での取組を参考にしつつ、まずは、次の4つの役割を基本にして始めてはどうかと考えます。

  1. Questioner(英文内容についての質問を作る。)
     普段のリーディングの授業では教師が質問を考え、生徒が答えることが多いと思います。一方で、日々のペアでのチャット活動では生徒同士による質疑応答などのやり取りが行われているのではないでしょうか。そのような生徒主体の活動を、読んで話す活動に取り入れようというものです。
  2. Summarizer(英文内容についての要約を作る。)
     本文の要点をまとめさせる活動です。中学校・高等学校においても教科書本文の内容をリテリングさせる実践が広がっています。その延長として取り組むことができると考えます。
  3. Connector(英文内容と自分自身や社会とのつながりを見つける。)
     教科書本文の内容を「自分事」にすることです。英文と自分自身をつなぎ、さらにグループのメンバーとつなごうとする行為は、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向かっていると考えられます。日頃のリーディングの授業で教科書本文内容から生徒個人のことや社会での出来事を尋ねる質問を行うことによって、生徒は英文を自分自身や社会とのつながりを意識して読み始めるのではないかと考えます。
  4. Illustrator(英文内容から重要な場面や印象に残る場面についてイラストを描く。)
     英文を読んでいる際に浮かんだイメージや情景を描きます。同じ英文を読んでいても、生徒によってに浮かぶイメージは随分と異なる可能性があります。そこにこの取組のおもしろさがあります。これも日ごろの授業で、読んだり聞いたりした内容を図式やイラスト化させる実践を行うことにより可能になります。

 ここまで見てきたとおり、リテラチャー・サークルの考え方を取り入れた言語活動は、上記の役割を準備する学習、グループでの発表と質疑応答やコメントなどのやり取りで構成されます。生徒は英文を読み、役割の準備をします。多くの場合は英語でメモを作る活動です。取組の当初はどれぞれの役割の理解と準備に十分な時間を取り、丁寧な指導が必要だと思います。生徒が学習方法に慣れてくると、役割シートの完成は家庭学習にすることができます。

【話し合い活動の指導手順】

 下の図は、話し合い活動を行うための指導手順と50分授業を想定した目安の時間を示したものです。読みの役割に沿って準備する段階を経て「2.ミニ・レッスン」を行います。例えば、対話を継続させるという視点から、対話を始めたり続けたりするための表現を復習することがあります。また、話し合い活動を録音・録画したものを見せ、話し合いの良い点や改善点を考えさせるなど、指導内容は多岐にわたります。

 次は、読みの役割ごとに集まる「3.ジグソー学習」です。読みの役割ごとに集まりそれぞれが準備してきたことを紹介したり、本文内容を確認したり、話し合い活動をうまく進めるための視点を共有したりします。同じ役割の生徒からは自分とは異なる視点や考え方で本文理解をしていることなどを知ることができます。その後、それぞれのグループに戻り、約15分間の「4.話し合い活動」を行います。教科書本文と読みの役割準備で得た情報を整理し、再構築して、互いに自分の考えを伝え合う場面となります。最後の「5.振り返り」では、うまく言えたことや表現できなかったことなどの成果や課題についてまとめ、次回の活動への改善点を考えます。図に示した指導手順の矢印が循環しているのは、リテラチャー・サークルの度にこのサイクルを続けていくという意味です。この活動は、何度か取り組むことで生徒も教師も活動方法のコツを掴めるようになり、明るく楽しい雰囲気で活動することができます。